満たされずにいれば、何を欲していたのかだって忘れてしまえる
満たされた記憶をもちあわせていなければ、満たないことの侘しさも知らずにいられる
一度手に入れば、触れば、視れば、
自分の満たないことに気付いてしまえば
欲する自由を覚えてしまえば
昨日の自分が欲しがっていた玩具を手にしながら
新しい玩具を羨ましいと駄々を捏ねて
際限なく増え続ける分母を満たしては、欠かし、繰り返し、
そうやって文明が紡がれてきたとしても
こんな風に、日々を平穏に満たされてしまったら
こんな風に、孤独の隙間を満たされてしまったら
あんなに冷たくて長い夜は、もう乗り越えられないんじゃないかな
満たされなければ、自分の手で満たせるだけのところで立ち止まってさえいれば
幸せも、不幸せも知らずにいられたのに
心臓を捻り潰すような喪失感を拭えなくて
散った花弁を拾い集めて、もう咲かないと知っていたって手放せずにいる
掌を開いてしまえば、そこに何もないことを思い出してしまう
一度、言葉に満たされてしまえば
一度、温度に満たされてしまえば
一度、形に満たされてしまえば
遺るのは、空洞の増えた器だけ