人の身体は、案外あっという間に冷たくなって、動かなくなってしまうものなのよね。
正しい最期というものが何なのかは解らないけれども、綺麗な終わりには出来なかった。
今もそれをずっと悔いている。
一番書き残したい記憶は、言葉にできない。
そうすることは命への冒涜であるとすら思うから。
言葉にできないその時間をただ反芻する、幾度となく繰り返し、その度に自分の内側に出来た大きな空洞を捉える。
死んだのは私ではないのに、まるで私が死んでしまったかのように感じた。
世界の全てがそこで色彩を失って、砂になって崩れ落ちていった。
遺ったものは、軽くて重い。
追う様に枯れてしまった木も、止まってしまった時計も、全てが意味を持っていたと思えてならない。
月の満ち欠けと共に痕跡の薄れていくさまに、心と呼ばれる見えないそれを踏み躙られる。
ただそのような日だった。いつも世界のどこかで起きている事が、目の前で今日という日に注がれた。
それ以上でも以下でもなかった。
それは明日も明後日もその先も変わらずにただ繰り返される。
それだけのことだった。
だとしても私は悲しまずには居られなかった。悲しむことしか出来なかった。
そうして今日まで悲しみ続けた。
悲しみ続ける為、悲しみという感情を生むべくして生きた。
果たしてそれは、どこまでが真の感情であろうか。
然りとて、今この悲しみを失ってしまえば、残るのは判然としない恐怖だけだが。