死はそんなにドラマチックじゃない。
何気なく続いていた日常が突然に途切れること、ただそれだけ。
死は なんの前触れもなく音も立てずにやってくる。
息を潜めたまま静かにやってきて、そうして全てを変えてしまった。
めまぐるしい非日常を何とかやり過ごして
今度は49日の間に気持ちの整理をつけなくちゃいけない。
まだ欠けてしまった席を見られなくて、だから私がそこに座っている。
いつの間にか捨てられていく物に耐えられなくて、だから私が隠し持っている。
他の誰かに寂しさを知られたくなくて、夜な夜な何時間もひとりで答えのない箱に話しかけている。
もうそれも出来ないけれど。
ひとつも大丈夫になんかなれないまま、時間は確実に進んでいて、少しずつ世界は変わっていく。
すっかり春になってしまった。
庭の木瓜が綺麗に咲いた。
雪柳の花びらが風に舞った。
桜の写真を撮りに行った。
乙女椿の枝を少し切って、玄関に飾った。
そういう些細なことを喜んでくれる人が、もういないということ。
私の日常は二度と戻らないということ。
この生活を新しく日常にしなければならないということ。
全部乗り越えて平気な顔をして
私のところに死がやってくるまで生きていかなければならない。
なんて
私にはとても出来そうにないよ。