コトダマリ

抜け殻の感性。

あの日の自分に問うている

どこにでも有り触れた
そんなに大したことじゃなかったのかもしれない。

それでもあの夜の、一瞬々々の全てを未だ覚えている。

全てが手遅れだった。

声。
裸足で駆け降りたコンクリート
一目見て、全てが崩れて行くのを感じた。
ぬるい水面。曲がり角。濡れた冷たい爪先。
映る47。膝に乗せた重み。
偽物の呼吸音。永久に思える程の廊下。
灰色のフリースの優しい匂い。
赤い光と無意味な機械音。
張り詰めた唇の端。届かない謝罪。
変に冷静にスマホの画面を滑っていった真夜中色のネイル。


どうして?


せめてひとつでも言葉が届いたら良かったのに
それにはあまりにも遅すぎた。

何ひとつ返せないままで終わってしまった。

命の潰えるそのいつかが来ることは、分かっていたことだとしても
どれだけの時間が経っても
私はずっとあの夜に閉じ込められたままなのだ。

誰かに理由を委ねる人生なんて褒められたものじゃないけれど
それでも確かに
あなたのために私は生きていたよ。
あなたが居たから私は死なずにいたよ。
あなたがそこに居たから、私は私で良かったと思えたよ。


消えた命がまだどこかに居ると信じられるほど純粋な心を持ってはいないけれど
伝え損ねたことが余りにも多いから
その九文字に話しかけるしかないことが、ただ哀しい。
私を呼ぶ声が聴きたくて、何度も留守電のメッセージを流し続けている。


未だ、最後にもう一度でも会えるなら、それで終わったっていいって
全てを捨ておいてもそう思う。

やっぱりまだ分からないんだよ。
あの時、全部、どうして。