シェーレグリーンやパリスグリーンの色素にはヒ素が混ざっていて、昔の画家はそれで中毒死をすることもあったらしい。
緑色を愛したナポレオンも、壁紙から発生した毒によって中毒死したとかなんとか。
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色という物は色相、彩度、明度の3属性から構成されていて、その組み合わせで以て管理される。
泣きそうな色の夕焼けも、地面に落ちて褪せた花弁も、野良猫の刺すような瞳も、16進数の6つの記号で表せてしまう。
でも私が見ている赤と、誰かが見ている赤が同じに捉えられているかなんて確証はどこにもないのだ。
そういう取りとめのないことに、私は時々不安になる。
色だけではない。
音も感情も触覚も味も 形の無いものは全て
私が捉えたそれと 誰かが捉えたそれが同じである確証などどこにもないのに
人は安易にそれを言語や記号でもって一括りにしてしまう。
この感情が「悲しみ」である確証はどこにもない。
私の「悲しみ」と誰かの「悲しみ」が同じである確証もどこにもない。
証明出来る理屈は何ひとつないのに、誰に教えられたわけでもないのに、私はいつの間にかそれを悲しみだと思い込んで生きている。
疑問を持たないことはひたすらに恐怖だと思う。
無意識のうちに見えない意志によって私という人間が造られている。
私に見えている世界も、私に芽生えた感情も
全て私だけのものなはずなのに、他人の作った言葉を借りてしか表現が出来ない。
そういうもどかしさを常に抱えて生きている。
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彼の見ていた緑は彼にしか見えなくて、きっとそれは命を捧げてしまいたくなるほどの色だったのだろうか、それとも。