梅雨の匂いを嗅ぎつけてベランダに出た
すっかり仕舞い忘れた洗濯物が下がっているのを見て溜息をつく
雨の向こうに見える光を数える
光の数だけ顔も知らない誰かが生きている
毎日が超幸せなわけでもないけど、耐えられないほど辛い事ばかりなわけでもなくて、それなりに笑って泣いて怒って、些細な不平不満をこぼしながら生きている
ベランダの外側の世界にはそういう私とさほど変わらない人が何万と居て
なのに、どうして自分だけこんなにも不幸な気がして、こんなにも取り残された気持ちになって、こんなにも消えてしまいたくなるのか
深夜の住宅街はまるで遠くの知らない国みたいに広くて、自分の存在を自分ですら見失ってしまう
自分を証明するためのナニカが欲しくて
だけど形有るものはいつか失くなってしまうから、形の無いものが欲しかった
先のことなんて分からないし、永遠なんて保証はどこにもないけれども
ただあの時の私は確かにそこで生きていて、それを示す方法を私は他に知らない
直径1mmの傷跡に誓いを立てた
希望を捨てないこと、忘れないこと、生きていくこと
孤独に心を蝕まれそうになったら、触れられるように
そうして何とか明日も私でいられるように